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東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科教授 江石義信先生

医学部進路の決め方

Q1.東京医科歯科大学の特徴についてお聞かせ下さい。

東京医科歯科大学は、「知と癒しの匠を創造し、人々の幸福に貢献する」ことを基本理念とした国内有数の大学です。全国の医学部は全て、基本理念を持っていますし、人々の幸福を追求することも、全ての医療機関で行われていると思いますが、この方針を明確に打ち出していることは大きな特徴の一つだと思います。また、本学は高度な医療を人々に提供する医療機関として、治療の手立てのない人、難病に苦しむ人に対して、研究でその原因を解明し、治療を行っていくことが使命であると考えています。
東京医科歯科大学の学生は皆、優秀で勉強に関しての問題はありませんが、少し競争に敏感過ぎるのではないかと考えています。本学では縦断チュートリアルという担任制を設けており、縦のつながりのあるグループに学生を分けて担任が付く制度を取っています。担任は学生に成績を開示しますが、その際に学生から詳細な点数や平均点、最高点などを聞かれることが増えました。受験の激しい競争の名残だと思いますが、あまり良いことではないように思います。大学入学後はテストの点数にばかりに気を取られることなく、今しかできない様々な経験をしてほしいと考えています。今後は、全学科・専攻での推薦入試、国際バカロレア入試や、帰国生入試なども行っていきます。このような入試制度を利用して入学する学生が、受験を突破して入学してきた学生達に、受験の思考から離れた新しい考え方やモノの見方を示してくれることを期待しています。急激に変化する医学の世界の中で、生き生きとできる人材は、柔軟な思考ができる人です。これまでとは異なる新しい考え方の下で大学生活を送ってほしいと思います。
将来を考えた時、これからの日本は少子高齢化やロボットの普及など、医師の役割が大きく変化する事態が起こります。何も考えずに周囲に流されて医師になってしまうと、自分の生きがいを見つけることが出来ず、医師として働くことに苦痛を感じてしまうと思います。医師を目指すのであれば、何か目標を持ち、独立心を身につけてください。そのような人は、医学部卒業後に多くの選択肢が用意されていますから、医学部は非常に面白い選択肢だと思います。

東京医科歯科大学

Q2.東京医科歯科大学の教育の特徴についてお聞かせ下さい。

本学の最も特徴的なことと言えば、4年次に5か月間、他の授業を一切行わず研究実習を行うプロジェクトセメスターというカリキュラムが組まれていることです。また、臨床実習の期間が長いことから国際基準に基づく分野別認証評価を全国に先駆けて受審しました。そのため他の大学よりも講義時間が制限されていますが、勉強のやり方だけを教え、学生に自主学習を促すことで講義時間を短縮しました。講義の形式を統合型講義という形式に変更し、学生が予習の際に興味を持ったこと、疑問に思ったことに合わせて講義や実習を行っています。更に、一日の中に講義、ディスカッション、実習など様々な形態の講義を行うことで、学生が退屈せず、モチベーションを維持できるような仕組みにしています。講義と講義の間には、適宜自由時間を設けており、学生はこの時間に予習をします。そして、それに基づいたプレゼンテーションを講義の中で行ってもらいます。教員は、間違えている内容の訂正や、更に理解してほしい内容の補足などを行っていきます。1、2年の教養課程の授業においてもこのような授業形態を採用して、学生が興味を持ちづらい一般教養へのモチベーション向上につなげています。インターネットが発達した現代では、調べればわかるようなことを教員が授業しても、学生は興味を示しません。教員の側からヒントを与え、学生が勉強したくなるようなモチベーションを与えた方が、学生は熱心に勉強します。学生に勉強の動機を与える教育体系を更に充実させていきたいと考えています。

東京医科歯科大学

Q3.先生ご自身のことについてお聞かせ下さい。

私は鹿児島県出身で、県立鶴丸高校から東京医科歯科大学に入学しました。医師になろうと思ったきっかけは、親に政治家を勧められたことでした。政治家になることも考えましたが、政治家というのは人間の誰もが持っている正と負の側面を両方見て、調整を行う職業です。自分は人間の良い面を見て仕事がしたいと思っていましたので、医学部に進学することに決めました。鶴丸高校は受験校でしたが、あまり勉強熱心な雰囲気はありませんでした。高校3年次の担任が家庭訪問に訪れた際、私は海に魚釣りに出かけていて不在であり、先生に怒られた思い出があります。受験では、九州大学と東京医科歯科大学を受験しました。姉が九州大学に通っていたので、受験の前日に姉のアパートに宿泊しました。しかし、当時は同棲が流行っていて、姉も彼氏と同棲しており、姉と彼氏のことが気になって夜も眠れず、翌日の数学の試験に集中できなかったことを覚えています。結果、九州大学は補欠合格でしたが、東京医科歯科大学に合格しましたので、東京医科歯科大学に入学しました。
大学に入学した時から研究志望でしたので、大学卒業後は大学院に進学し、その後はオーストラリア国立大学の研究所に留学しました。当時は研究に自信を持っており、期待する結果が得られないのは日本で十分な研究時間が与えられていないだけであり、オーストラリアで研究に集中できれば思いどおりの成果が出るはずだと意気込んでいました。しかし、いくら時間をかけても期待しているような研究成果が得られません。私はその時、学問の真理とは絶対的なものであり、いくらこちらから働きかけても人間の都合に応じて望み通りの結果が出るとは限らないものだと感じ、研究は趣味と位置づけ、日本に帰国しました。
帰国後は、研究は楽しくなければならず、他人と競争しても良い結果は出ないと考え、病理診断などの臨床を中心に行うようになりました。臨床を中心にして、研究は自分の医者人生を充実させる手段の一つと捉えなおすことで、研究を楽しく感じることが出来るようになりました。今は、臨床を行う上で上手くいかないとき、自分が一生懸命努力したのに患者が亡くなってしまったときなど、行き場のない虚しさを感じた時に、それをぶつける場として研究を活用するべきだと考えています。本学でも、大学病院で臨床研修を行う研修医全員に、大学院での研究機会を提供しています。臨床の場に立つことが中心であっても、虚無感に襲われた時のために研究の場を持っておくことは、医師としてとても重要なことだと思います。
今は医学部長という立場でたくさん仕事があり、その他に研究、学生の指導も行っています。私ではなくてもできる仕事はどんどん後輩たちに任せて、私でなければできない仕事を自分でするようにしています。責任は私が取りますが、チームとして仕事をすることで、あまり忙しさを感じずに済んでいます。また、仕事を続けるモチベーションとして、人間が好きだということがあると思います。時には騙されることもありますが、まずは仲間だと思って接し、無防備に人と付き合う方が、医師として望ましいと考えています。

Q4.東京医科歯科大学医学部を目指す受験生と保護者の方にメッセージをお願い致します。

人に勧められて医学部に入学するのではなく、自分がどういう人間で、どういう形で生きがいを感じることが出来るのかを考え、その実現のために医学部に入学してほしいと思います。医学部は、卒業後に様々な進路があり、一生懸命勉強して入学する価値のある学部です。入学後は様々なことを経験し、自分について、価値観について考えてみてください。様々なことに挑戦する中で、多少自分に痛みが返ってきたとしても、それによって人の痛みが分かる人間になりますし、人の輪が広がっていくと思います。大学生の間は、勉強ばかりでなく、様々なことを経験してください。大学としても、人間性豊かな医師を育成することが使命であり、人間教育を行っていく仕組みを作っていかなければなりませんが、本来これはこちらから教えるものではなく、自分で身につけ、体験するものであろうと思います。勉強は研修医になってからでもできますので、大学入学後は今しかできない恋愛や、アルバイトなど様々なことに挑戦してほしいと思います。

関連リンク 東京医科歯科大学ホームページ

えいしよしのぶ
江石義信先生 略歴

現職
東京医科歯科大学大学院消化代謝病学講座、人体病理学分野、教授

学位
医学博士 1982年3月(東京医科歯科大学)
PhD degree 1990年9月(オーストラリア国立大学)

免許
医師免許 昭和53年6月取得
死体解剖資格 昭和62年3月
病理専門医 平成2年7月取得
臨床検査専門医 平成17年8月取得

学歴
1972年3月 鹿児島県立鶴丸高校卒業
1972年4月 東京医科歯科大学医学進学課程入学
1978年3月 東京医科歯科大学医学部医学科卒業
1978年4月 東京医科歯科大学大学院医学研究科博士課程入学
1982年3月 同 博士課程修了(医学博士:第352号)
1983年4月 オーストラリア国立大学John Curtin School of Medical Research PhD課程入学
1990年9月 同 PhD課程修了(Doctor of Philosophy: No.21217)

職歴
1982年4月~ 東京医科歯科大学医学部第一病理学講座助手
1983年4月~ 休職にてオーストラリア国立大学に留学(1986年3月まで)
1992年2月~ 東京医科歯科大学医学部第一病理学講座講師
1994年4月~ 東京医科歯科大学医学部附属病院病理部助教授(副部長)
2000年4月~ 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科病因・病理学分野助教授
2004年4月~ 病因・病理学助教授より人体病理学助教授に分野名変更
2007年1月~ 同人体病理学分野教授に昇任、現在に至る。
2007年4月~ 東京医科歯科大学附属病院病理部 部長、現在に至る。
2014年4月~ 東京医科歯科大学 医学部長、現在に至る。
2016年4月~ 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科長、現在に至る。

学会活動等
【所属学会】
日本病理学会(評議員)、日本サルコイドーシス学会(理事)、日本胃癌学会(評議員)、日本臨床検査医会、日本臨床検査専門医会、日本胸部疾患学会、日本細菌学会、等
【受賞】
日本病理学会A演説(1989年)、上原賞研究奨励賞(1990年)、御茶ノ水医科同窓会研究奨励賞(1990年)、サルコイドーシス研究奨励賞(1994年)、RMBC研究奨励賞(1994年)、大内敦子難治疾患研究奨励賞(2004年)、千葉保之・本間日臣記念賞(2004年)、XXth World Congress of the ISHR poster award(2010年)
【国際貢献】
中南米における本学の大腸癌早期発見プロジェクトの責任者として2008年より活動中。
ウルグアイにて早期大腸癌発見を目的としたODAプロジェクトを指導(1996年以降)